ロシアがウクライナへ侵攻を開始して8月24日で2年半が経過する。
ウクライナ軍はこのタイミングでロシアに対して第2次世界大戦後、初めてとなる外国軍によるロシア領土への本格的な侵攻に遭遇した。
ウクライナ軍はこのタイミングでロシアに対して第2次世界大戦後、初めてとなる外国軍によるロシア領土への本格的な侵攻に遭遇した。
ロシアの独裁者として君臨するプーチン大統領は、「国民の安全を守る強いリーダー」を自負するもののウクライナの攻撃について沈黙したままだ。
ロシア国内ではプーチンに対して不都合な真実となる情報を意図的に流すこともない管制下に置かれたメディアは避難者の状況を伝える報道は極端に少ない状態であり、噂が真実を流す歪な社会となっている。
ロシア国内ではプーチンに対して不都合な真実となる情報を意図的に流すこともない管制下に置かれたメディアは避難者の状況を伝える報道は極端に少ない状態であり、噂が真実を流す歪な社会となっている。
ウクライナが越境攻撃を加えているロシア西部クルスク州の国境地帯から300kmほど北東に位置し、首都モスクワの360km南にあるオリョール市の中心地にある建物に支援物資が集められているという。
ウクライナ軍が侵攻しているクルスク州に隣接しているオリョール州にも多くの避難者が押し寄せている。
市の中心地には、市民らが避難者への支援物資を持ち寄る集積所が設置された。
ウクライナが攻撃を始めて1週間後の8月13日に現場を仕切る女性が「支援物資を持ってきてくれたのでしょうか。それとも、ここに集められたものを避難者に届けたいのでしょうか」など、あちこちに指示を出しながら、忙しそうにしているところに、西側のジャーナリストが現地を訪れ、取材をすることは可能かどうか尋ねると、女性は快く撮影を許可してくれたという。
最初は警戒する様子はなく、好意的に「どこでも自由に撮影してください」と話していたが、念のため上司に確認するので身分証の写真を撮影させてほしいといわれた数分後、撮影をやめてください。今すぐに出て行って下さい!」と警告するなど彼女の対応は一変したという。
記者たちは理由も聞かされないまま建物から一方的に追い出されてしまったという。
建物の周辺には複数の警察官が警戒にあたっており、ウクライナの越境攻撃の大きさを隠そうとするプーチン政権が指示して情報の隠蔽を測っていることが急であったことが対応の変化で垣間見せた。
この建物から少し離れたところで、支援物資(寝具や衣類など)を取りに来たクルスク州からの避難者(女性 匿名)の話として、「家の近くで銃声が聞こえるわけではありません。しかし、グラートの音がするんです」と話した。
このグラートとはロケット砲を積んだ軍事車両のことで、住宅のすぐ近くでロケット砲が発射されていたという情報だ。
市街地にロシア軍が展開して反撃をしているため、一般国民を巻き込むことも意に介さない戦術でウクライナ軍に対抗しているという構図のようだ。
また、「店に商品はなく、売り切れです。クレジットカードは使えません。仕事はなく、現金を持っている人もほとんどいません」
攻撃が迫る街は、ミサイルで破壊されなくとも、社会的な機能をすでに失っているため、女性らは住み慣れた家を離れ非難していると語った。
ただ、情報をロシア政府が隠そうとしても不可能で、これまでウクライナ侵攻を支持し、ロシア軍に同行取材を繰り返している「Zブロガー」から、ウクライナ軍によるロシア領への直接攻撃を最初に伝えた。
8月6日の早朝、「Zブロガー」はウクライナ側から
重装備の武装集団
が国境を越えてロシアに侵入したと伝えた、かなり大規模な攻撃の様がわかった。
直後の同日午前10時、プーチンのクレムリンに近いテレグラムチャンネル「マッシュ」は、その報道を打ち消す形で、攻撃を仕掛けてきた約100人の武装集団をロシア側が撃退したという偽情報を報じた。
また、ロシア国防省やクルスク州のスミルノフ知事代行は攻撃を受けたことは認めたが
「ロシアは国境を突破させなかった」
とこれまた大本営発表の如き戦果を誇張して発表した。
しかし、事実は違った。「Zブロガー」たちのほうがより正確で、「Zブロガー」らは「撃退した」とするロシア国防省の発表は虚偽だと訴え、大規模なウクライナ軍に国境を越えられたロシア軍の「失態」を批判し続けた。
ただ、軍事作戦であり、一定の戦果まで情報を戦術的観点から秘密にする必要があるウクライナ軍でも秘密裏に攻撃を開始したウクライナ側も情報を隠していたため、実際に国境地帯で何が起こっているのかを正確に一般人が知ることはしばらくできなかった。
ロシア国内でこの事態に対する認識が大きく変わったのは攻撃開始から2日たった8月8日になってからのことで、
クルスクの住民が怒りを爆発させた動画
がSNSに投稿されてロシア国民の知るところとなり、拡散してしまった。
クルスク州のスジャンスキー地区の住民が集まってプーチン大統領宛てのビデオメッセージ
「ヴラジーミル・ヴラジーミロヴィッチ!(=プーチン大統領!)情報を担当する指導者たちに真実を示すよう、本当の行動を示すよう伝えてください。なぜならこれは嘘だからです。嘘です。嘘なのです。」
を投稿したうえ、ウクライナの攻撃で家を失い銃撃の中を逃げてきたと主張、「状況は安定している」という国防省の公式声明は真っ赤な嘘であると言い放った。
また、地方自治体はほとんど機能しておらず、国境地域からの避難誘導も行われていないとロシア政府のコントロール下にないことを明かした。
プーチンの取っ手不都合な真実を話したことで、情報機関など当局から弾圧される危険を冒してまで「当局の発表は、嘘だ、嘘だ、嘘だ」と何十人もが顔を隠さずに声を上げる動画は、国家反逆罪等の犯罪行為ととして逮捕のリスクがあるが、こうした真実の情報が流れ出たことでロシア中に強いインパクトを発生させた。
中国同様の、共産主義国家の多くで見られる行為でもある情報機関の監視や締め付け、下部組織の犯罪組織を使った身柄の拘束や殺害などを現在でも表面的な圧力として繰り返しているロシア社会では口に出すリスクをマスコミが報道して見せつけて忖度するよう矯正してきたのが実態だ。
住民らのビデオが拡散した8日午後、プーチン大統領は地元知事と会合し、プーチン大統領が口からは避難者への補償、提示したのはわずか1万ルーブル(約1万6000円)だけであった。
避難者たちの怒りを買う恐れもある避難者を馬鹿にしたような額であり、プーチン大統領がこのような低い支援を提示したのは、事態の重大さを隠す情報工作の狙いがあったと見られている。
プーチン大統領は今回の越境攻撃について、これまでと同様に「戦争」や「侵攻」といった言葉を使わず
「挑発行為」
だと呼び、クルスクで起こっていることは、1万ルーブルの補償でまかなえる程度でしかないといった意識を植え付けた。
都市から離れた「国境地域」で起こっている自然災害のようなもので、多くのロシア人には関係ないということを示したとも言える。
プーチン大統領は「ロシア人の安全を守るため」だと主張してウクライナへの全面侵攻
「特別軍事作戦」
を始めたが2年半後にウクライナの越境軍事作戦によって逆にロシア人の生命が脅かされている事態を招いたことを認めることも、自身の情報の歪みで縛られてできなくなっている。
ただ、この事態はロシアにとって悪化し続け、ウクライナ軍は支配地域を広げており、8月12日、プーチン大統領は再び、軍や自治体関係者との会合を開いた。
ここでもプーチン大統領はウクライナ軍の進軍状況について話そうとするクルスク州の
スミルノフ知事代行
の発言を「その点は軍が報告するでしょう。あなたは支援についてだけ話してください」と遮り、ウクライナ軍が優勢に攻めているといった状況を報告されることを回避した。
プーチン大統領の指示に従って話したスミルノフ氏が明らかにした12日の時点で避難区域に指定された地域には18万人が住んでいて、そのうち12万1000人がすでに避難していたが、州当局は2000人の消息が確認できていないと続けた。
この被害の数字だけでも、十分に衝撃が広がった。
なお、ウクライナの攻撃は続き、避難対象地域はさらに広がっているが、大勢の避難者が出ているにもかかわらず、プーチン大統領はロシア領内に侵入したウクライナ軍を撃退するよう軍に命じるだけで、避難者への追加の具体的な支援策などは打ち出せず放置したままだ。 プーチン大統領はこの日以来、クルスク州へのウクライナ軍の攻撃についてコメントすることを止めた。
この「国境地帯」での戦闘がロシア人に忘れ去られるのを待っているといった揶揄が見られる。
戦闘が行われている国境地帯では情報収集として利用されるとことをロシア軍はおそれ、インターネットの接続も制限しており、現地住民の生の声が拡散することを規制したと見られる。
そのため、ロシア国営放送が報じるのは、行政の声が中心で、避難者の苦境を伝えるリポートはほとんどない。
また、ウクライナ軍がいかにひどい仕打ちをしているかだけが強調され、ロシア国民の憎悪を生み出そうと躍起だ。
ただ、ロシア政府が情報をいくら制限しても、避難者への関心を失わないロシア人も少なくない現実もある。
ロシアの野党グループでは即座に
避難者支援
を訴え、行政とは別に支援物資の取りまとめを始めた。
8月15日、モスクワ市内に野党グループが構えた支援物資センターには多くの物資が持ち込まれている。
担当者のポリーナさんに取材した西側記者によると、1日に20人ほどが寝具や石鹸、歯ブラシ、子ども用の保存食、おもちゃなどを持ち寄ってくれると明らかにした。
現地では行政も避難用のテントを設置するなど、さまざまな支援をしているものの、プーチンの発言もあり、行動が制限される地方自治体は官僚主義的で、ウクライナ戦線での将兵への食料や日用雑貨、火器弾薬類の補給などの兵站線の維持が優先となり、物資輸送も滞って避難者の必要なものがすぐに手に入るわけではない状況にあるという。
野党グループは、現地のボランティアと情報交換しながら必要な物資を迅速に集め、送るように努めていると述べた。
プーチン政権は、ウクライナによるクルスク州への攻撃を、ロシア人がウクライナや西側諸国への憎しみをより強めるために利用することを狙っている。
プーチン大統領は、限られたコメントの中で、今回のクルスク州への攻撃により志願兵の数が増えたと主張している。
情報部門がモスクワの劇場襲撃立て籠もり事件を工作し、解決までの多数の被害者が生じさせ、ロシア人に憎悪感情を植え付け第二次チェチェンでの虐殺皇位を正当化する構図と同じ情報誘導が行われようとしている。
もともとは、ロシアがウクライナへの侵攻を始めたことが、今回の事態を招いたものだが、国営メディアなどではそうした経緯は一切封印したうえ、西側の支援をうけたウクライナ軍が国境地域を不当に攻撃したと一方的に報じられている。
こうした報道に接していれば、クルスク州で家を失った住民が、西側への怒りを増大させるツールとなっている。
ただ、プーチン政権では1万ルーブルの補償で、実態を矮小化させようとし一切情報を流さないため、ロシア国内での憎悪感情も一部国民にしわ寄せが集まるような形となっている。
人々の助け合いの輪が広がっていくことが、プーチン政権下のロシア社会を徐々に変えていくとしても遅々として進まないのはスターリンのごとく独裁者が出れば、全てが粛清されてしまい情報の遮断が起きかねない。
プーチンにより情報が制限されているロシア国内では、13万人をこえる避難者がいることや、ロシア軍が全長46kmにおよぶ塹壕を掘削していて土地の形が変わってしまっていることなどは、まだ強くは意識されていない。
ただ、ウクライナによるロシア領の一部支配が長期化すれば状況は経済的負担が蓄積され、物言うロシア人が増えて口を塞ぎきれなくなり、意識が変わってくるだろう。
ロシアでは9月に統一地方選挙が行われるが、情報機関の監視下では、ウクライナが支配している地域での投票は非現実的で、自由に立候補も出来ないだろう。
この時になり、ロシア人はあらためて領土の一部が占領されている現実と向き合うことになるが、自由に語ることが、プーチンにとってふつごうなものであれば、闇から闇に消される可能性があり、脅しや恫喝、身体へのリスクを見せつけられればロシア国民の多くは何もものは言えない。
この時になり、ロシア人はあらためて領土の一部が占領されている現実と向き合うことになるが、自由に語ることが、プーチンにとってふつごうなものであれば、闇から闇に消される可能性があり、脅しや恫喝、身体へのリスクを見せつけられればロシア国民の多くは何もものは言えない。