イーロン・リーヴ・マスク
(Elon Reeve Musk)
1971年6月28日生まれ
南アフリカ共和国のプレトリア出身の起業家
スペースX、テスラのCEO、X Corp.(旧:Twitter)の執行会長兼CTOを務めている。
新たな決済サービスPayPalを作り出したほか、電気自動車、宇宙開発、太陽光発電などのビジネスで成功を収めた。
当時没落していたそれらの業界を再興させた。
「影の米大統領」の異名を持つピーター・ティールやYouTube創業者のチャド・ハーリーなどと共にペイパルマフィアの一人。
2012年にはスペースXが国際宇宙ステーションに宇宙船を打ち上げた。
また、テスラはEV 「モデルS」 を発売した。
これによってマスクは宇宙と自動車というまったく別の業界で偉業を成し遂げた。
スティーブ・ジョブズに例えられる存在となるなど、映画アイアンマンのモデルでもある。
フォーブスの長者番付によると2021年時点で3200億ドル (約41兆円) の資産を有し、世界で初めて資産が3000億ドル (約34兆円) を超えた人物でも記録される。
イギリス人とアメリカ人(ペンシルベニアダッチやミネソタ州出身の白人)をルーツに持つ南アフリカ人の技術者・実業家の父親
エロール・マスク(Errol Musk)
と、モデル・栄養士の母親メイとの間に南アフリカで生まれた。
当時の南アフリカでは、アパルトヘイト(人種隔離政策)を推進する政府のプロパガンダが氾濫していた。
マスクが暮らしたのは経済の中心地ヨハネスブルク、首都プレトリア、東部の沿岸都市ダーバン。
マスクが育ったが郊外のコミュニティは、虚報(フェイクニュース)が溢れていたという。
南ア政府で白人の立場で育ったマスクにはトラウマになった過去があるとマスクの父親はメディアの取材で語っており、マスクが求める言論の自由にはその過去の体験の影響があるという。
マスクは幼少期からものづくりに興味を持ち、ロケットを使った実験を繰り返していた。
9歳の時に両親が離婚、マスクは弟のキンバルと共に父親のもとに身を寄せた。
10歳のときにコンピュータを買い、プログラミングを独学した。
12歳のときには最初の商業ソフトウェア
Blaster
を販売したり、自作の対戦ゲームソフトを売り、500ドルを手にした。
学生時代はいじめに遇い、階段から落とされたり、気絶するまで殴られたりして再建手術が必要になるほどのいじめを受けた直後、ブライアンストン高校からプレトリア男子高校に転校した。
米国の「やる気さえあれば何でもできる」という精神と、最新のテクノロジーへの憧れから移住を試みた。
資金が無くそう簡単では無かった。
母親はカナダのサスカチュワン州レジャイナ生まれ、多くの親戚がカナダ西部に住んでいた。
そこでカナダ国籍を持つマスクは1989年6月にカナダに移住したサスカチュワンのスウィフトカレントにあるいとこの小麦農場で穀物貯蔵所の清掃をしたり野菜畑で働いた。
また、ブリティッシュコロンビアの製材所でのボイラーの清掃やチェーンソーで丸木を切る過酷な労働の日々を送ったという。
その後、オンタリオ州へ引っ越して、1989年に19歳でカナダのクイーンズ大学に入学した。
クイーンズ大学に在学中、弟のキンバル・マスクとともに会ってみたい実業家に電話をかけてランチに誘うという方法で
ノヴァ・スコシア銀行
でインターンをする機会を得た。
マスクはアメリカへの移住を希望し1991年には米国のペンシルベニア大学ウォートン校へ進むための奨学金を受けた。
同大学で経済学と物理学の学士を取得した。
大学時代は家の家賃を稼ぐため寮でナイトクラブを開催した。
電気自動車用のバッテリーを作るため、1995年に高エネルギー物理学を学ぶためスタンフォード大学の大学院へ進学した。
インターネットの勃興によって方針を転換し、当初はブラウザを世界で初めて開発したネットスケープに入社しようと思い立ち、履歴書を持って本社まで足を運んだ。
恥ずかしさと恐怖のあまり人に話かけることができず入社を断念した。
1995年、マスクは大学院を休学して弟のキンバルとグレッグ・クーリの3人でZip2を設立した。
同社は、地図や道案内、イエローページなどを備えたインターネット上のシティガイドを開発し、新聞社に売り込んだ。
当時、パロアルトにある小さなレンタルオフィスで、マスクは毎晩のようにウェブサイトのコーディングに励んだ。
やがてZip2は、ニューヨーク・タイムズ、シカゴ・トリビューンとの契約を獲得した。
兄弟はシティサーチ社との合併を断念するよう取締役会を説得した。
しかし、マスクのCEO就任の試みは頓挫、1999年2月、コンパックがZip2を現金3億700万ドルで買収した。
マスクは7パーセントの株式で2200万ドルを受け取った。
1999年、マスクはオンライン金融サービスと電子メール決済の会社
X.com
を共同設立した。
X.comは連邦政府が保証する最初のオンライン銀行の1つとなり、設立後数カ月で20万人以上の顧客が加入した。
マスクは創業者でありながら、投資家から経験不足とみなされ、年末にはCEOをIntuit社の
ビル・ハリス
と交代した。
2000年、X.comは、オンライン銀行コンフィニティ社の送金サービス
PayPal
がX.comのサービスよりも人気があった。
このため、競争を避けるためにコンフィニテイ社と合併した。
その後、マスクは合併した会社のCEOとして復帰した。
マスクはUnix系ソフトよりもMicrosoft系ソフトを好んでいたため、従業員の間に溝ができた。
この結果、コンフィニティの創業者
が辞任することになった。
2000年9月、「技術的な問題」が重なり、ビジネスモデルもまとまらないため、取締役会は
マスクを更迭
しえ、ティールを復帰させた。
ティールの下、同社は送金サービスに注力し、2001年にPayPalと改名した。
2002年、ペイパルはeBayに15億ドルの株式で買収され、ペイパルの株式の11.72%を持つ筆頭株主のるマスクは1億7580万ドル (約200億円)を受け取った。
それから15年以上経った2017年、マスクはペイパルからX.comのドメインを個人的な思い入れもあり購入した。
2022年10月5日、「Twitterの買収は万能アプリ『X』の開発を加速する」とツイートした。
マスクはペイパル売却で得た約200億円を元手にテスラへの出資やスペースXの起業などに着手した。
2002年に3つ目の会社として、宇宙輸送を可能にするロケットを製造開発する
スペースX社
を起業し、CEOならびにCTOに就任した。
マスクは巨大な再利用ロケットを建造して人々を火星に移住させ、人類を多惑星種 (Multiplanetary Species) にすることを目指した。
2015年、スペースXは衛星インターネットアクセスを提供する低地球軌道衛星のスターリンクコンステレーションの開発を開始した。
2018年2月に最初のプロトタイプ衛星2基が打ち上げられ、スターリンクは数万基の小型人工衛星で地球を覆うことで世界中の僻地やインターネット不通地域でのネット利用を可能にした。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際、マスクはスターリンク端末をウクライナに送り、インターネット接続と通信を提供した。
この行動はウクライナの大統領であるウォロディミル・ゼレンスキーによって賞賛された。
しかし、マスクはスターリンクでロシアの国営メディアを遮断することを拒否したうえ、自らを「言論の自由絶対主義者」であると宣言しあ。
スペースXはまた、地球低軌道における
新しいミサイル防衛システム
の一部として、宇宙開発庁のためにカスタム軍事衛星を設計し、打ち上げている。
このシステムにより、米国は地球上のどこからでも発射される核ミサイルや極超音速兵器を感知し、照準を合わせ
潜在的に迎撃する新たな能力
を獲得することになる。
中国とロシアはこのプログラムについて国連に懸念を表明した。
また、様々な機関がこれが世界を不安定化し、宇宙での軍拡競争の引き金になりかねないと警告している。
テスラ社は、2003年に
マーティン・エバーハート
マーク・ターペニング
によって創業された電気自動車 (EV) 開発企業である。
マスクは2004年2月のシリーズAラウンドの出資を主導し、650万ドルを出資して大株主となった。
会長としてテスラの取締役会にも参加した。
2009年のエバーハードとの訴訟和解により、マスクはターペニングと他の2人とともにテスラの共同創業者に認定された。
2019年時点で、マスクは世界の自動車メーカーで最も長く在職しているCEOとなた。
2010年の株式公開以来、テスラの株価は大きく上昇し、2020年夏には最も価値のある自動車メーカーとなった。
また、同年末にはS&P500に入り、2021年10月には、米国史上6社目となる時価総額1兆ドルに到達した。
2022年、マスクはテスラが開発した人型ロボット「オプティマス」を発表した。
マスクはテスラで持続可能な移動手段の構築に取り組んでいるが、エネルギーの生産においても持続可能性を追及しており、太陽光発電にその可能性を見出だしている。
マスクは太陽を自然の核融合炉に例えて、地球に降り注ぐ太陽光を人類が利用できれば地球全体を賄うだけの持続可能なエネルギー源になると考えている。
太陽光発電会社ソーラーシティは、マスクの従兄弟
リンドン・マスク
とピーター・リヴが2006年に設立した会社で、マスクは最初のコンセプトと資金を提供した。
2013年には、ソーラーシティは米国で2番目に大きな太陽光発電システムの提供会社となった。
2014年、マスクはソーラーシティがニューヨーク州バッファローに、米国最大の太陽光発電所の3倍の広さの生産施設を築くという構想を推進した。
この工場は2014年に着工し、2017年に完成した。
2016年、テスラはソーラーシティを20億ドル超で買収し、自社のバッテリー部門と統合してテスラエナジーを設立した。
2020年初頭までパナソニックとの合弁会社として運営された。
2013年には真空チューブ列車のハイパーループのアイデアを提唱した。
ハイパーループは減圧チューブ内を乗用ポッドが浮上して走行することで、旅客機や日本のリニアモーターカーを越える時速1223kmで移動することができ、サンフランシスコとLAを30分で結ぶことができるという構想。
マスクはハイパーループを自動車や航空機に次ぐ 「第5の移動手段」 と呼んだ。
ただ、マスク自身は開発を行ってないが、ハイパーループのアイデア自体をオープンソース化した。
2016年、マスクは1億ドルを出資してニューロテクノロジーのベンチャー企業であるニューラリンクを共同設立した。
ニューラリンクは、脳に埋め込む装置
ブレイン・マシン・インタフェース (BMI)
を作ることで、人間の脳と人工知能(AI)を統合し、機械との融合を促進することを目指している。
また、アルツハイマー病や認知症、脊髄損傷などの神経疾患の治療用デバイスの開発も目指している。
マスクは2017年の段階でTwitterの買収に興味を示し、2022年4月には実際にTwitter買収提案を行い、同年10月に買収が完了した。
Twitter買収後すぐに、前任CEOのパラグ・アグラワルを含むTwitterのトップ役員を解雇した。
また、月額8ドルの「ブルーチェックマーク」を導入して、同社の従業員を大量にレイオフした。
同年12月15日、個人情報の共有を禁止するルールに違反したとしてCNN、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなどに所属する記者のアカウントが凍結された。
CNNはマスクのこの行為を批判した。
このほか、EUや国連からも非難されたため、17日には投票によって凍結が解除された。
2023年3月9日、X Holdings Corp.とX Corp.をネバダ州に登録した。
同日に人工知能(AI)企業としてxAIの設立を計画していることが報じられた。
xAIは同年7月12日に設立したことを発表したが、X Corp.とxAIは別会社としている。
同年4月4日、Twitterを自身が保有するX Corp.に統合した。
同年7月24日、サービス名としてのTwitterもXに切り替えた。
マスクはXを決済サービスなどの様々な機能を搭載するスーパーアプリ化を目指すと述べた。
マスクは人工知能は人類にとって最大の脅威となるとの見解を示している。
また「ターミネーターのような」AIによる大災害を警告し、政府がその安全な開発を規制すべきだと示唆した。
2015年、マスクはスティーブン・ホーキングらと共に、自律型致死兵器の禁止を求める人工知能に関する公開書簡の共同署名者となった。
2023年7月12日、マスクはxAIと呼ばれる人工知能企業を立ち上げた。
xAIは、ChatGPTなどの既存のサービスと競合する生成AIの開発を目的としている。
同社はGoogleとOpenAIからエンジニアを採用したと言われている。
ネバダ州に設立されたこの会社は、10000台のGPUを購入した。
マスクはスペースXとテスラの投資家から資金を得ていたと言われている。
2024年2月29日、マスクはOpenAIとサム・アルトマンを提訴した。「
人類に利益をもたらす人工知能の開発」という、OpenAI創設期の使命を放棄して事実上の親会社であるマイクロソフトの利益を最大化する組織に変貌したことを訴訟の理由とした。
リバタリアン的な言動が目立つが、自身は政治的穏健派と称している。
米国の民主党・共和党の二党制や左派・右派の二元論(善悪二元論)で分類されることを好んでいない。
多くのアメリカの大企業と同様に、リスクヘッジのために政治献金は両党に行っている。